大きなひとつの屋根の下に人々が集える場をつくる
昔を懐かしむわけではありませんが、縁側、濡れ縁、路地・・・人々が何気なく座ったり、集ったりできる場所がどんどんなくなっていくように思えます。車、バイクの往来が激しくなったり、暮らし向きの変化等が原因でしょうか・・・。
また、大きな敷地があれば、細かく分割して、そこに草も生えないようにコンクリートを打ち、駐車場を造り、あとは法的に許されるギリギリの大きさまで建物を建てる・・・そんな街並みが増えてきました。
ここでは、そんな時代に少しだけ逆らって、大きさ木の下に人々が集えるようなイメージを膨らませて計画していきました。
この計画ではアトリエとして設計しましたが、同時にアトリエを囲んで、一つ屋根の下にゆるく人々が集える場をつくることを目指しています。
概要としては、住居兼アトリエの周囲に半屋外の回廊を巡らせて、作家を慕う人々が集まったり、地域に対して気軽に開放できるような場づくりを考えています。ゆくゆくは地域活動のひとつの場になれば、とも思っています。
夜になれば、回廊の照明が回廊そのものを浮かび上がらせ、幻想的な雰囲気になります。
【建築データ】
建築築年:2023年 新築
建築面積:119.21㎡
延べ床面積:52.99㎡
構造:在来軸組構法
地域:東京都東大和市
検討段階
・全体計画について
模型、3Dパースによる検討を何回も実施いたしました。
外部廊下の空間と内部との繋がりなど模型により立体的に把握することでオーナー様とも意思疎通を致しました。
計画当初より、家の周囲にゆったりとした半屋外の回廊を回すというアイデアを採用していただけたので、あとは内部のプランニングを徐々に詰めていきました。カタチはできるだけシンプルにしました。複雑な収まりをあちこちにつくると工事が複雑になり手戻りがでたり、工事費が無駄に跳ね上がるという弊害を防ぐということもありますが、「シンプルで中身が濃い」というものを目指しました。
・構造について
模型の段階で外廊下の収まり、仕様をかなり検討しました。当初は外廊下の柱がなく屋根を1.8mほど跳ねだしの形状にしたかったのですが、協力していただいた構造設計者から構造的に無理があるのでは・・・とご指摘いただいたので柱を設置することにしました。ちなみに平屋ですが、許容応力度計算にて建物の安全性を確認しています。なお柱はすべて120角を使用しています。
また全体的な構造軸組もあわせて検討していきました。その中で柱の設置が必要になったことで、柱の根元の収まり、柱の基礎、柱の仕上げをどうするか?など検討要素は多々出てきました。
こちらが当初の設計案。改めて見返すと、柱がないことで、逆にすっきりし過ぎる感じです。
・色彩について
また隣の敷地には蔵があるので、蔵のイメージに近づけることも検討しています。
外壁の仕上げは白い漆喰、屋根は瓦をイメージした黒もしくはグレー系。外周柱の色は蔵の柱の色に合わせて濃い茶系にすることにしました。
屋根は瓦も考えましたが、耐震性を考慮して重量が軽く耐久性のあるガルバリウム鋼板を採用しました。
・断熱性能について
断熱性能については、外壁はモルタル通気工法をとり、モルタル下地でも通気が取れるように設計しています。(フジカワ通気ラス75Evo.Ver)
壁についてはアクリアネクストα20K(厚105mm)を充填し、屋根については、アクリアネクストα20K(厚105mm)を二重にしています。床はアクリアUボードピンレスα20K(厚105mm)を使用しています。
また、庇も大きいので直接的には日射の影響は少ないのですが、敷地や周辺環境も入力して、日射のあたり方も検討しました。
耐震性能、断熱性能、そして換気に至るまでの性能面・動線・全体デザインは、設計段階こそカギとなります。
・内部空間について
内部空間も作り込んで検討しています。3次元のデジタルデータと違い、見る人が自分の好きな角度から自由に見れる点がメリットです。
内部空間は、無垢の床材をふんだんに使い、床にゴロンと寝転んでも心地よい空間になることを狙っています。
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・決定案のパースとなります。
回廊に柱が入りました。回廊のスロープと柱の基礎との取り合いをどうするか?悩みましたが、柱の足元にグルっと基礎を回すことで解決しました。 BIMにより作成されているため、意匠面、構造面においていろんな角度から検討しています。
車いすの方の方も考慮して、ゆったりとしたスロープを画面の右側から回り込ませています。
工事着工
いよいよ着工致しました。
基礎工事の段階です。回廊と配管の関係を施工図を起こして、何度もチェックしています。外廊下があるので、配管の検討は難しいものがありました。必要な配管、将来に必要になるであろう配管、もしかしら必要になるかもしれない配管などを予測してあらかじめ外廊下の下に設置しておきました。
工事中に施工詳細図を起こして、基礎工事における他との取り合い-配管、ドアの収まりなど・・・検討していきました。
何度も検討していくため、図面が書き込みだらけになります。
いよいよ上部の木軸が組み上がりました。
大きな屋根がとりわけ目立ちます。
完成
いろんな方のご協力のおかげで、無事完成いたしました。感謝のいたりです。
・内部のリビングの様子です。
通常はリビングのように使いますが、展示もできるようスポットライトで部屋を照らしています。床材は無垢材で木を彫りこんだ凹凸が肌さわりでわかるような「うづくり」仕様になっています。
・リビングから玄関を見たところ。
玄関と部屋の扉は高さ2.4mの大きな引戸を設置しました。
玄関の赤い壁紙がさえています。これはお客様のチョイスによるもので、外部の緑と相まって、空間にピッタリです。
土間については洗い出し仕上げ(大磯の石(二分))としました。赤い壁との組み合わせで和の雰囲気が出ています。
土間の立ち上がりについても洗い出し仕上げとしています。
おちついた雰囲気があり、タイルや大理石とはまた違った表情があります。
・夜間の外観です。
回廊の照明により、建物が浮き上がって見えます。
外廊下の照明ですが、ショールームに行って、実際の照度を確認したりして、明るさを検討しました。
お客様からはちょっと明るすぎるかな・・・とも言われましたが、照度を事前にお客様と共有することの難しさを実感しています。
回廊でいろいろとできるよう外部コンセントも東西南北に設置してあります。将来を見越して予め仕込んでおくという設計が大切と考えたためです。
・・・コンセプトは、一つ屋根の下に人々が気軽に集まる場をつくる。・・・
コンセプトを理解していただき、お陰様でお客様にはご満足していただけたので、近隣の方々やご友人の方々がゆったりとこの場ですごしていただき、この町の風景の一部になっていければと思っています。